2011年9月12日月曜日

坂本宰の影「42 第9幕」

坂本宰さんはもう20年もシルエット・パフォーマンスを行っていますが、わたしが初めて体験したのは2006年の初台DOORSのイヴェント。大きな布を吊るした後ろで光源となるランタンをぐるぐる回して自分自身の影を写すその手法は、シンプルだけれども他のどこでも観たことのない、一度観たら忘れられない強い印象を残すものでした。

その後、次に観る機会が訪れるのはだいぶ経ってからだったのですが、単独公演、また新井陽子さんとマルコス・フェルナンデスさんとの共演を観てますます感銘を受け、いつしか公演予定を常にチェックし続ける存在に。今年の3月には、震災直後、七針でおこなわれたイヴェントで、布を使わずに懐中電灯や自転車のライトを使ったパフォーマンスによる美術や音楽との共演があり、懐中電灯にかぶせた手の指の微妙な動きだけでなんともいえない抽象的な形の美しい影を作り出す手法に驚かされ、またアイディアの豊富さにうならされたものでした。

今年7月から中野富士見町plan-Bでほぼ毎週パフォーマンスをされていて、その9回目の公演に足を運びました。この日はチェロの坂本弘道さんがゲスト。直前に情報をチェックしていなくて坂本弘道さんの出演を当日会場で初めて知りました。これはラッキー。

始まりは、床に広げられた布に下から空気が送り込まれて波打つような動きをしていて、あとはいくつかの電球や台があるだけのがらーんとした空間。そこにOHPで水滴の映像が投影されていました。いつも布の向こうで何が起こっているのか、もどかしい思いをしながら観ていたので、いきなりこの始まり方には驚かされました。種も仕掛けもない、というわけではないけれど、想像していたよりもだいぶシンプルな装備なのです。

坂本宰さんが奈落から登場し、ゆっくりと紐をひっぱって布を吊るすその仕草がまたすばらしい。そしてまぼろしのようにふっと沸いては消えていく影。坂本弘道さんは、最初のうちは静謐にそっと坂本宰さんの世界に寄り添うような音を出していたけれど、次第に激しいノイズを出したり、ドラマチックに曲を演奏して盛り上げたり。最後は布の向こうからマッサージ器の電動音と思われるノイズが撒き散らされる中、坂本宰さんの繊細な影のパフォーマンスが続きました。

坂本宰さんはシルエット・パフォーマンスを初めてまだそんなに経っていない頃、初めて共演した音楽家の一人が坂本弘道さんだったのだそうです。坂本弘道さんのともすれば過激なイメージと坂本宰さんの静謐な世界は、一見意外な組み合わせのようにも思われます。でも長い関係もあり、また坂本弘道さんは演劇の音楽をよく担当しているので、このようなパフォーマンスに合わせるのはさすがに上手い。こういう場合はこういう場合の芸風でとはならずに、坂本弘道さんらしい演奏を聴かせられるのがすごい。

坂本弘道さんからはその前の日まで行われていた「JAZZ ARTせんがわ」での一般公募の自由即興での話を聞きましたが、そんなことがあったのかーと思ってネットで検索してみてもどこにもその話は転がってなかったです。やはりネットで知ることができる情報って限られるものなんだなと思いました。「JAZZ ARTせんがわ」の自由即興、来年はまた参加したいです。